光触媒抗菌・抗ウィルス機能

菌やウィルスによる疾病罹患への心配は、昨今の新型コロナウィルス禍でより顕在化しました。
既に30年近く以前より、抗菌製品は商品化されまたが紛い物の跋扈により市場形成が阻まれました。
こうした歴史に鑑み、光触媒製品では厳格な試験法の制定、JIS化を経て消費者からの信頼を得られることを第一義に検討されてきました。

光触媒を用いることによる効果として、抗菌も挙げられます。光触媒は前述の通り、光のエネルギーにより励起され発生したOHラジカルが作用します。このOHラジカルが菌のDNA螺旋を切断し、脂質・タンパク質を酸化することから微生物そのものを不活化し、次世代固体を生じさせず、繁殖を抑制させることが知られています。これまでの紫外線のみでの殺菌では、微生物は活性を失っても、再び可視光を浴びると再活性化してしまう弱点を補完する効果といえます。

抗菌とは

抗菌とは製品の表面における細菌の増殖を抑制する状態と定義されています。
光触媒抗菌の場合、光照射下での生菌数が8時間以内に暗所の生菌数の1/100以下に減少することで規定されています。

殺菌とはどう違う?

殺菌滅菌は薬事法により「微生物を死滅させること」と規定され医学医療分野でのみ使用が許される用語です。
細菌の発生・生育・増殖を抑制する抗菌とは厳密に区分されており、光触媒では用いることが禁じられています。

これに対して「滅菌」という用語、これも認証を要する用語ですが「紫外線」は滅菌と称することが認証されており、そのメカニズムは右図のとおりです。

すなわち、菌細胞内のDNA、RNAに紫外線照射されるとピリミジンダアイマー、ピリミドン化合物が掲載されることで螺旋状細胞が壊れて遺伝情報が狂わされることで次世代の細胞を形成できなくなります。

これをもって、その菌は継代細胞ができなくなり、死滅とカウントされることになります。

光触媒抗菌のメカニズム

それでは光触媒が抗菌として作用するメカニズムはどのようなものでしょうか?

光触媒が加工された表面に光が当ると光触媒反応により酸化力の高い活性酸素種が生じることは説明しました。

この活性酸素OHラジカル・O2マイナスは光触媒表面に接触してくる菌の細胞表面を酸化力で分解し細胞面に孔を穿ちます。

この孔から細胞液が滲出し、細胞内組成が壊れ菌は死滅し、増殖することができなくなります。

この状態をもって光触媒抗菌の作用と位置付けられます。

それでは光触媒が抗菌として作用するメカニズムはどのようなものでしょうか?

光触媒による効果を確認するために、室内条件に近い蛍光灯下での光触媒加工ステンレス板の抗菌効果を調べた結果を以下に示します。

実験

JIS R1702「ファインセラミックス-光照射下での光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法」フィルム密着法」に従い、供試片の表面に1/500普通ブイヨンで調整した菌液(Escherichia coli NBRC-3972)を滴下し、フィルムで密着させ20~25℃で遮光および蛍光灯を照射しながら保存。測定は供試片上の菌液について生菌数を測定した。

結果

表1のとおり、光触媒ステンレス板の初期菌数は大腸菌にて3.0×105個。蛍光灯を照射して24時間後には10個以下と菌の死滅が観測された。

抗菌力試験       ((社)京都微生物研究所による)

試験菌 測 定 試 料 供試片1枚あたりの生菌数
E-coli 接種直後 対 照 3.0×10
遮 光  室温8H後 対 照 1.7×10
検 体 1.9×10
光触媒照射 室温8H後 対 照 3.5×10
検 体 <10

実環境における抗菌評価

この抗菌・抗黴性能については、水分の多い食品工場などにおいてさえ、非常に高い効果をもたらすことが証明されています。 写真1、2については、乳製品工場の天井面への施工後6ヵ月後のものですが、効果の違いが非常にはっきりと現れています。

写真1、2は同時に清掃清浄化し、その後写真1のみ光触媒塗布施工を実施しました。

その後3ヶ月で天井の状態を検分したところ、光触媒塗布した写真1では清浄化後と何ら変化なく美観を維持しましたが光触媒塗布を行わなかった写真2の表面はカビが以前と同様に発生していることが確認されました。

公共交通機関のおける光触媒の抗菌利用

不特定多数の人々の出入りがある公共建物や交通機関では、菌やウィルスの伝播拡散が心配されています。

イタリアの首都ローマでは、こうした問題への対処として市中を巡回する市バス車内に光触媒抗菌コートを施して、その効果実証試験をおこないました。

2台の市バスの車室内を清掃・洗浄した後、直ちにその時点での附着菌数を確認する評価をおこないました。

次に1台に光触媒抗菌コートを施し、1台はそのままとしました。

その後、2台のバスは通常と同様に市中を走り回り、乗客を乗降させて運航すること1ヵ月経過した時点で、清掃後に行ったのと同一の菌数評価をおこないました。

以下はその結果です。未コートのバスは光触媒コート済バスに比べ、最大87%菌数が多く検出されたという結果です。興味深いのはより乗降客が接触する乗降ボタンやグリップなどで、より菌数の違いが明らかになったことです。

この実験写真の全容が事例ギャラリーの頁でご覧いただけます。

光触媒抗ウィルス

光触媒抗ウィルスのメカニズム

光触媒による抗ウィルスを説明する前にまずウィルスとはどのようなものか説明します。

先に説明した菌とは全く異なるものだからです。

①ウィルスとは

ウイルスとは自身がエネルギーを産生することが出来ず、他生物の細胞を宿主として増殖する性質をもつものです。
その構造から大別して、エンベロープ(脂質二重膜)をもつウイルスとエンベロープをもたないウイルスに大きく分類され
エンベロープをもつウイルスの一例としてはインフルエンザウイルス、エンベロープをもたない一例はノロウイルスが挙げられます。


②抗ウィルスメカニズム

光触媒抗ウイルス機能とは、光触媒の表面においてウイルスの活性(感染能)を抑制する状態と定義されています。

光触媒作用により発生した活性酸素種が、ウイルスの外膜(エンベロープあるいはカプシド)を酸化分解することにより、
ウイルスの活性(感染能)を抑制することと説明されます。

ウィルスの増殖メカニズム

エンベロープをもつウィルスとしてインフルエンザウィルスを例にするとエンベロープとその内側のカプシドに包まれた内部にこのウィルスの生存と継代を生成する遺伝子が存在します。またその外殻をヘマグルチニンとノイラミニダーゼというタンパク質が覆っています。

ウィルスは自己で増殖することができないため宿主として細菌などの微生物を宿主としてこれに吸着します。このときに活躍するのがヘマグルチニンです。

吸着したウィルスは宿主の内部に浸透して増殖します。
この増殖過程としてまず遺伝子が宿主細胞内で複製されます。
複製された遺伝子は宿主細胞内にタンパク質を合成します。
合成されたタンパク質は遺伝子情報に則ってエンベロープ、カプシド、ヘマグルチニン、ノイラミニダーゼを生成します。
こうして元々、宿主細胞に吸着したウィルスは宿主細胞内で自己の複製を生成します。
その後複製されたウィルスは継代として宿主細胞から放出されます。このとき放出に関与するのがノイラミニダーゼです。

光触媒の作用

光触媒はこうしたウィルスの増殖を抑制します。

その作用は光触媒が紫外線励起されることで生ずる活性酸素の分解機能により機能します。

すなわち光触媒の分解力はウィルスを構成する外殻のヘマグルチニン、ノイラミニダーゼを分解し、外殻であるカプシド、エンベロープを壊してウィルス内部に浸透します。

さらに遺伝子を分解しウィルスが継代を複製させません。

また外殻構造の分解にまで至らなかった場合でもヘマグルチニンが分解されて宿主細胞に吸着することができないウィルスは複製を生成して継代をつくれないため、自己の寿命で死滅します。

あるいは宿主細胞上に複製されたウィルスがあったとしてもノイラミニダーゼが壊されているため、これを宿主細胞から放出することができないのです。

こうして光触媒機能はウィルスの増殖を止めることができます。

③光触媒抗ウィルスの特徴

光触媒による酸化分解には、分解対象の選択性がないため、ウイルスの種類にかかわらず効果を発揮することが期待できます。
このため、ウイルスの突然変異の影響もほとんど受けないと考えられています。
エンベロープを持たないウイルスは、一般的に消毒薬等に対する耐性が高いとされていますが、
光触媒はエンベロープの有無に関わらず抗ウイルス効果を発現することが確認されています。

5.光触媒抗菌抗ウィルスの使い方

光触媒による抗菌抗ウイルス作用は、光触媒の表面のみで起こります。気中に浮遊する菌やウイルスへの効果は、
気中から光触媒表面に直接、接触した菌、ウイルスについては不活化作用を期待できるのですが、
あくまでも光触媒の表面で発現するものであり、空間への直接の効果を示すものではないことをきちんと説明する必要があります。